夜ハ…

【芭蕉自筆影印】 
 夜ハ草の枕を求めて 昼のうち思(?)ひまうけ多る介しき むすひ捨多る(未完)発句なと 矢立取(?)出て 灯の下耳 め越とち 頭多ゝきて うめき伏せ者 可の道心の坊 旅懐の心う(憂つらい)くて 物おもひする尓や登 推量て 我を慰ンとす ワ可き時 拝可ミめくり多る地 あミ多(阿弥陀)のたふとき 数をつくし をのかあやしと おもひし事共 者なしつゝくるそ 風情のさハ(障)りとなりて 何を云出る事もせす(一句もまとまらず) とても(いままで)まきれ多る 月影の 可への破連より 木の間可くれ尓(もれ)さし入て 引(?)板の音 志可おふ聲 所ゝ尓きこへ介る 誠耳可なしき秋の心 爰耳盡せり
(夜は草の枕を求めて、昼のうち思(?)ひまうけたるけしき、むすび捨たる(未完)発句など、矢立取(?)出て、灯の下に、めをとぢ、頭たゝきて、うめき伏せば、かの道心の坊、旅懐の心う(憂つらい)くて、物おもひするにやと、推量て、我を慰んとす。わかき時、拝がみめぐりたる地、あみだ(阿弥陀)のたふとき、数をつくし、をのがあやしと、おもひし事共、はなしつゞくるぞ、風情のさは(障)りとなりて、何を云出る事もせず(一句もまとまらず)。とても(いままで)まぎれたる、月影の、かべの破れより、木の間がくれに(もれ)さし入て、引(?)板の音、しかおふ声、所ゞにきこへける。誠にかなしき秋の心、爰に尽せり。)