桟…

【芭蕉自筆影印】 
 桟者し 寝覚なと? 猿可者ゝ たち峠なとハ 四十八曲りと可や 九折(ツヅラオリ)重りて 雲路耳 たとる心地せら流 歩行(カチ)より行(ユク)ものさへ 眼くるめき たましゐしほみて 足定まらさり介る耳 可のつれ堂る奴僕 いともおそるゝ介しき見えす 馬のうへ尓て 只袮ふりに袮ふりて 落ぬへき事 あま多ゝひなり介る越 跡(?)より見上介て あやうき事可きりなし 佛の御こゝろ尓 衆生のうき世を 見給(?)ふも かゝる事尓や登 無常迅束の いそ可ハしさも 我身尓可へり見ら禮て あ者(阿波)の鳴戸盤 波風もな可り介り 
(桟はし、寝覚など?、猿がばゝ、たち峠などは、四十八曲りとかや、九折(ツヅラオリ)重りて、雲路に、たどる心地せらる。歩行(カチ)より行(ユク)ものさへ、眼くるめき、たましゐしぼみて、足定まらざりけるに、かのつれたる奴僕、いともおそるゝけしき見えず、馬のうへにて、只ねぶりにねぶりて、落ぬべき事、あまたゝびなりけるを、跡(?)より見上げて、あやうき事かぎりなし。佛の御こゝろに、衆生のうき世を、見給(?)ふも、かゝる事にやと、無常迅速の、いそがはしさも、我身にかへり見られて、あは(阿波)の鳴戸は、波風もなかりけり。)