いてや月…

【芭蕉自筆影印】
 いてや月のあるし尓 酒振ま者んといへ者 さ可つき持出多り よのつ年耳一めくりもお保きくして ふつゝ可なる蒔繪をし多り 都の人ハ 可ゝるものハ風情なしとて 手尓も婦連さり介る耳 おもひも可けぬ興耳入て 王・靑(?)碗(セイワン)玉巵(ギョクシ玉杯)の心ちせらるも 所可らな里

(いでや月のあるじに、酒振まはんといへば、さかづき持出たり。よのつねに一めぐりもおほきくして、ふつゝかなる蒔絵をしたり。都の人は、かゝるものは風情なしとて、手にもふれざりけるに、おもひもかけぬ興に入て、王・青(?)碗(セイワン)玉卮(ギョクシ玉杯)の心ちせらるも、所がらなり。) 



夜ハ…

【芭蕉自筆影印】 
 夜ハ草の枕を求めて 昼のうち思(?)ひまうけ多る介しき むすひ捨多る(未完)発句なと 矢立取(?)出て 灯の下耳 め越とち 頭多ゝきて うめき伏せ者 可の道心の坊 旅懐の心う(憂つらい)くて 物おもひする尓や登 推量て 我を慰ンとす ワ可き時 拝可ミめくり多る地 あミ多(阿弥陀)のたふとき 数をつくし をのかあやしと おもひし事共 者なしつゝくるそ 風情のさハ(障)りとなりて 何を云出る事もせす(一句もまとまらず) とても(いままで)まきれ多る 月影の 可への破連より 木の間可くれ尓(もれ)さし入て 引(?)板の音 志可おふ聲 所ゝ尓きこへ介る 誠耳可なしき秋の心 爰耳盡せり
(夜は草の枕を求めて、昼のうち思(?)ひまうけたるけしき、むすび捨たる(未完)発句など、矢立取(?)出て、灯の下に、めをとぢ、頭たゝきて、うめき伏せば、かの道心の坊、旅懐の心う(憂つらい)くて、物おもひするにやと、推量て、我を慰んとす。わかき時、拝がみめぐりたる地、あみだ(阿弥陀)のたふとき、数をつくし、をのがあやしと、おもひし事共、はなしつゞくるぞ、風情のさは(障)りとなりて、何を云出る事もせず(一句もまとまらず)。とても(いままで)まぎれたる、月影の、かべの破れより、木の間がくれに(もれ)さし入て、引(?)板の音、しかおふ声、所ゞにきこへける。誠にかなしき秋の心、爰に尽せり。)


桟…

【芭蕉自筆影印】 
 桟者し 寝覚なと? 猿可者ゝ たち峠なとハ 四十八曲りと可や 九折(ツヅラオリ)重りて 雲路耳 たとる心地せら流 歩行(カチ)より行(ユク)ものさへ 眼くるめき たましゐしほみて 足定まらさり介る耳 可のつれ堂る奴僕 いともおそるゝ介しき見えす 馬のうへ尓て 只袮ふりに袮ふりて 落ぬへき事 あま多ゝひなり介る越 跡(?)より見上介て あやうき事可きりなし 佛の御こゝろ尓 衆生のうき世を 見給(?)ふも かゝる事尓や登 無常迅束の いそ可ハしさも 我身尓可へり見ら禮て あ者(阿波)の鳴戸盤 波風もな可り介り 
(桟はし、寝覚など?、猿がばゝ、たち峠などは、四十八曲りとかや、九折(ツヅラオリ)重りて、雲路に、たどる心地せらる。歩行(カチ)より行(ユク)ものさへ、眼くるめき、たましゐしぼみて、足定まらざりけるに、かのつれたる奴僕、いともおそるゝけしき見えず、馬のうへにて、只ねぶりにねぶりて、落ぬべき事、あまたゝびなりけるを、跡(?)より見上げて、あやうき事かぎりなし。佛の御こゝろに、衆生のうき世を、見給(?)ふも、かゝる事にやと、無常迅速の、いそがはしさも、我身にかへり見られて、あは(阿波)の鳴戸は、波風もなかりけり。)
 
 


何ゝといふ…

【芭蕉自筆影印】 
 何ゝ登いふ處尓て 六十(ムソジ)者可利の 道心の僧 おもしろけも おかし介もあらす 多ゝ むつゝゝと志多る可 腰多者むまて物おひ 息ハせ者しく 足ハきさむやう尓あゆみ来連るを ともなひ遣る人のあ者れ可りて をのゝゝ肩耳可け多るも(?)のとも 可の僧乃おひ袮ものと ひとつ耳可らみて 馬耳付て 我を其(?)上耳のす 高山奇峰 頭の上耳お保ひ重りて 左り盤大川な可れ 岸下の千尋(チヒロ)農おもひをなし 尺地も平可ならされ者 鞍のうへ静可ならす 只あやうき煩(ワズライ)のミ やむ時なし

(何ゝといふ処にて、六十(ムソジ)ばかりの、道心の僧、おもしろげも、おかしげもあらず、たゞ、むつゝゝとしたるが、腰たはむまで物おひ、息はせはしく、足はきざむやうにあゆみ来れるを、ともなひける人のあはれがりて、おのゝゝ肩にかけたるも(?)のども、かの僧のおひねものと、ひとつにからみて、馬に付て、我を其(?)上にのす。高山奇峰、頭の上におほひ重りて、左りは大川ながれ、岸下の千尋(チヒロ)のおもひをなし、尺地も平かならざれば、鞍のうへ静かならず。只あやうき煩(ワズライ)のみ、やむ時なし。)
 






さらしなの…

【芭蕉自筆影印】 
 さらしなの里 お者すて山の月見事 志きり尓すゝむる 秋風の心耳 吹さ者きて とも尓風雲の情をくる者すもの 又ひとり 越人と云 木曽路ハ 山深く道さかしく 旅寝の力も心もとなし登 荷兮子か 奴僕(ヌボク)をしておくらす をのゝゝ心さし盡す登いへ共 羈旅(キリョ)の事 心得ぬさま尓て 共にお保つ可なく もの事の志とろ耳 あとさきなるも(?) 中ゝ尓 をかしき事のミ多し

(さらしなの里、おばすて山の月見事、しきりにすゝむる、秋風の心に、吹さはぎて、ともに風雲の情をくるはすもの、又ひとり、越人と云。木曽路は、山深く道さがしく、旅寝の力も心もとなしと、荷兮子が、奴僕(ヌボク)をしておくらす。をのゝゝ心ざし尽すといへ共、羈旅(キリョ)の事、心得ぬさまにて、共におぼつかなく、もの事のしどろに、あとさきなるも(?)、中ゝに、をかしき事のみ多し。)
 
 



5.浅間

【芭蕉自筆影印】
 吹と者す石者あさまの分哉
(吹とばす石は浅間の野分哉)

【句碑】
①浅間神社
 長野県北佐久郡軽井沢町追分1155-7 
 追分宿郷土館(追分1155-8)隣

 婦支飛寿石裳浅間能野分哉
(ふき飛す石も浅間の野分哉)
 


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4.更科・善光寺

【芭蕉自筆影印】
  月影や四門四宗も只一

  いさよひもま多佐らしなの郡哉
  (十六夜もまだ更科の郡哉)

【句碑】
①往生寺 刈萱堂
 長野市西長野往生地1334


 月影や四門四宗も多ゝ一つ
(月影や四門四宗もただ一つ)

②善行寺大本願
 長野市元善町491大本願寺本堂前左

 月影や四門四宗も只一つ

③苅屋原パーク
 埴科郡坂城町苅屋原榎坂Googlemaps

 いさよひも末多更科の郡可南
(いさよひもまた更科の郡かな)

④村上大国魂社・十六夜観月殿
 埴科郡坂城町村上綱掛Googlemaps
  鳥居・石段登・左石段・右石段上

 いさ与比も末多更殖能郡可奈
(いさよひもまた更殖の郡かな)




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