何ゝといふ…

【芭蕉自筆影印】 
 何ゝ登いふ處尓て 六十(ムソジ)者可利の 道心の僧 おもしろけも おかし介もあらす 多ゝ むつゝゝと志多る可 腰多者むまて物おひ 息ハせ者しく 足ハきさむやう尓あゆみ来連るを ともなひ遣る人のあ者れ可りて をのゝゝ肩耳可け多るも(?)のとも 可の僧乃おひ袮ものと ひとつ耳可らみて 馬耳付て 我を其(?)上耳のす 高山奇峰 頭の上耳お保ひ重りて 左り盤大川な可れ 岸下の千尋(チヒロ)農おもひをなし 尺地も平可ならされ者 鞍のうへ静可ならす 只あやうき煩(ワズライ)のミ やむ時なし

(何ゝといふ処にて、六十(ムソジ)ばかりの、道心の僧、おもしろげも、おかしげもあらず、たゞ、むつゝゝとしたるが、腰たはむまで物おひ、息はせはしく、足はきざむやうにあゆみ来れるを、ともなひける人のあはれがりて、おのゝゝ肩にかけたるも(?)のども、かの僧のおひねものと、ひとつにからみて、馬に付て、我を其(?)上にのす。高山奇峰、頭の上におほひ重りて、左りは大川ながれ、岸下の千尋(チヒロ)のおもひをなし、尺地も平かならざれば、鞍のうへ静かならず。只あやうき煩(ワズライ)のみ、やむ時なし。)