さらしなの…

【芭蕉自筆影印】 
 さらしなの里 お者すて山の月見事 志きり尓すゝむる 秋風の心耳 吹さ者きて とも尓風雲の情をくる者すもの 又ひとり 越人と云 木曽路ハ 山深く道さかしく 旅寝の力も心もとなし登 荷兮子か 奴僕(ヌボク)をしておくらす をのゝゝ心さし盡す登いへ共 羈旅(キリョ)の事 心得ぬさま尓て 共にお保つ可なく もの事の志とろ耳 あとさきなるも(?) 中ゝ尓 をかしき事のミ多し

(さらしなの里、おばすて山の月見事、しきりにすゝむる、秋風の心に、吹さはぎて、ともに風雲の情をくるはすもの、又ひとり、越人と云。木曽路は、山深く道さがしく、旅寝の力も心もとなしと、荷兮子が、奴僕(ヌボク)をしておくらす。をのゝゝ心ざし尽すといへ共、羈旅(キリョ)の事、心得ぬさまにて、共におぼつかなく、もの事のしどろに、あとさきなるも(?)、中ゝに、をかしき事のみ多し。)